壁新聞

【『まちポレ壁新聞 -電子版-』更新しました。】Vol.112

◆いよいよ来月から福島県初開催となる『午前十時の映画祭』が開幕します。開幕前にいきなりフィナーレの話題で恐縮ではありますが、一年間の掉尾を飾るのが「ペーパー・ムーン」と「ラスト・ショー」の2作品です。

そこで今回は、その「ペーパー・ムーン」を引き合いに出した3年半前の84号をご紹介します。この紙面では、佐藤忠男さんにも触れていますし。

 

◆『まちポレ壁新聞』最新183号『そんな時代も』(2/26発行)は、5階ロビーに掲示中です。

※161号以降のバックナンバーのファイルもあります。

 

まちポレ壁新聞 №84  2022年8月27日

異端と、正統派と。

Time My-Scene ~時には昔の話を~ (vol.49)

 

配給会社のビターズ・エンドが「ぜんぶ、ボクのせい」のディスプレイ用にと、新聞や雑誌に掲載された映画評のデータを送ってくれたのですが、その中に「映画芸術」のものがあり、同誌の表紙も添付してありました。そのビジュアルは『名美』のイラストです(正確に言うと、「赤い教室」と書いてあるだけ)。

この冒頭の書き出しだけで、今回の内容がピンときた方は相当な変人に違いありません。もちろん私自身を含めての話ですが。

見出しには、追悼の文字とともに石井隆を筆頭に、佐々木史朗、佐藤忠男、青山真治、伊藤雄(敬称略)の名前が記されています。みんな、今年鬼籍に入った映画人たちです。そして、傍らにはそれぞれ追悼文を寄せた方の名前が並んでいます。

 

石井さんの脇には、竹中直人さん他2名。竹中さんは石井隆監督・脚本の「天使のはらわた 赤い眩暈」「死んでもいい」「GONIN」などに出演し、「ヌードの夜」では村木哲郎役を演じました。雑誌などでも石井さんに心酔いていることをよく書いていましたね。

 

佐々木史朗さんのことは、以前ATGについて触れたときに書いた記憶があるけれど、何代目かの社長だった方です。

コメントを寄せているのは、「遠雷」の根岸吉太郎監督と「ヒポクラテスたち」の大森一樹監督、そして「遠雷」のプロデューサーでもあった岡田裕さん。岡田さんの場合は、シネマアルゴの共同設立者としての立場なのかもしれませんね。

 

佐藤忠男さんは、映画評論の分野での第一人者でした。本は一冊も持っていませんが、<正統派>と言っていいと思います。何より、アジアの知られざる国々の作品やドキュメンタリーを多く紹介し、また、今村昌平監督の後を継いで日本映画学校の校長にも就きました。映画を<後方から育てた>方だという印象があります。その功績からすると、報道の扱いは小さすぎますね。

 

青山真治監督は、「EUREKA」などの作品がありますが、未見のため語る資格がありません、ゴメンナサイ。

ただ、「退廃姉妹」というタイトルで映画化する予定だったシナリオが掲載されており、これはちょっと気になります。

 

5人の中で唯一名前を存じ上げなかったのが、最後の伊藤雄さん。

調べてみたら、湯布院映画祭の創設メンバーだったのですね。

湯布院の存在は、映画祭と名の付くものに絡んでいる人にとっては、〈憧れ〉の存在と言っても決して過言ではないと思います。私が映画サークルに入っていたときには、メンバーや友人も行ってました。うーん、羨ましすぎるゾ。

いつもの長いあとがき

「天使のはらわた 赤い教室」で、ヒロイン〈名美〉を追い求める男〈村木哲郎〉を演じたのが蟹江敬三さん。

こちらも既に故人ですが、以前から大ファンで、にっかつ撮影所にお邪魔したときに遠めにそのお姿を発見したときはキョーキ乱舞したものでした。もともとは悪役専門でしたが、その存在は脇で輝いていました。本作と「十九歳の地図」は代表作と言えると思います。

しかし、もう新作でその存在に触れることは出来ないので、松下由樹さんと刑事役でバディを組んだ「おとり捜査」シリーズの再放送にチャンネルを合わせては、茶々を入れながら楽しんでいます。

 

さて、冒頭に書いた松本優作監督の新作「ぜんぶ、ボクのせい」は、今年五指に入るだろうなという期待を抱いて、初日に駆けつけました。結果、期待に違わぬ秀作ですぐにもう一度見たいと思ったのですが、ネットを検索すると意外にも批判的な感想が多いのです。そのほとんどが、浮浪者と少年が一緒に暮らしているのに周りの人がそのままにしているのはあり得ないというものです。確かに。私もそれは感じたし、他にも脚本の弱さはあり、それは物語が構成されなくなる危うさをもはらんでいるのですが、私にはそれは枝葉に思えて気になりませんでした。何だか前文と矛盾することを言ってはいるのですが、松本監督の描こうとした核心は別のところにあるように思います。

 

製作中、監督には「ペーパー・ムーン」(1973年)の似非親子(演じていたのは実の親子ですが)のイメージがあったそうです。

あの映画の惹句は、「愛し合う、信じ合う、助け合う、この心の宝石を昨日に置き忘れていませんか?」「信じれば、ホラ、紙のお月さまだって本物に見えるでしょ」というものでした。ウラを取っていないので多少は違っているかもしれませんが、要旨はこんな感じだったはずです。

胡散臭いホームレスを演じて絶品の味わいを見せるオダギリジョーさん、オダギリジョー初監督作の「ある船頭の話」のヒロインを演じた川島鈴遥ちゃん、主演の白鳥晴都くん、それぞれの事情で母の愛情に渇望している3人が、愛し、信じ、助け合って織りなす疑似家族。監督の視線は常に登場人物に優しく寄り添います。

3人の会話は常に海辺で進行するのですが、打ち寄せる波音までも言葉を持っているかのようです。脇の仲野太賀くんも絶妙だし、ここは敢えて「必見」と申しあげて、この文を締めることにします。           (沼田)