壁新聞

【『まちポレ壁新聞 -電子版-』更新しました。】Vol.17

◆5月の連休明け毎金曜日、NHK-BSプレミアムで「山田太一シリーズ/男たちの旅路」が、3週連続各回3話の計9話が放送されました。早々と情報を仕入れていたのですが、早すぎて忘却してしまい、初回の冒頭10分ぐらいを録り損ねてしまいました。とはいえこれで、不完全ながらも第三部までは揃えることができました。
 そんなわけで今回は、それらのテレビドラマを取りあげた6号を採録。6月1日に発行した「壁新聞」111号とセットでお読みいただくといいかも。
 末尾で触れたスターの肖像画展も、またやりたいなぁ。

まちポレ壁新聞№6 2018年11月16日

差別用語

タイトル未定の新しいコラム (その6)

いつもこの原稿は家で好きなCDをBGMに流しながら書いています。
選ぶ時もあれば、目に留まったものを取り出すときも。
今日は、久しぶりにサザンでも聞くか……という気分になり、「バラッド」を。必然的に目に浮かんでくるのは、手のひらから離れた宙に舞うリンゴ。

50代後半の世代にとって、ドラマ「ふぞろいの林檎たち」は、手あかのついた言葉だけれど、まさに<青春のバイブル>といえるのではないかと思う。
……とここまで書いて、手が止まってしまった。書きたいことがありすぎるのだ。ドラマはパートⅣまで全部見ているし、シナリオも全作読んでいる。サザンの音楽の使われ方についても少しは書ける。だから、敢えて今回はわき道にそれた書き方をしたいと思う。

この頃は少なくなったけれど、息せき切って『本編始まっちゃいました?』と駆け込んでくるお客様が時々いらっしゃいます。つまりは、予告が終わってお目当ての作品が始まってますか?ということなのですが、この〈ホンペン〉という言葉、今ではちょっと死語になりつつありますね。私見では、シネコンの普及がそうさせたように思っています。

もともとはこの言葉、映画界の方がテレビに対して放った、上から目線のいわば〈差別用語〉だと聞きます。映画が斜陽化し、活躍の場をテレビに移した〈元〉映画スターが、『ホンペンに戻りてぇなぁ』といったふうな、ホンペン=映画という、テレビを一段下に見た言い方です。

私はこの新聞で、2回も山田洋次監督作品を取り上げているので、監督、あるいは「男はつらいよ」のファンと思われるでしょうが、別にそれを否定はしませんが(天邪鬼な書き方だ)、実はそれ以上に、同じ山田でも、山田太一作品の方がもっと好きです。冒頭に挙げた「ふぞろいの林檎たち」はもちろん、「男たちの旅路」シリーズなど、何度見たり読んだりしたか分からないほど。
ただ、残念だし悔しいのは、あまたある代表作なのに「岸辺のアルバム」「想い出づくり。」「早春スケッチブック」「真夜中の匂い」あたりになると、レンタル店でも探し出すのは至難の業で、映像ではなかなか見られないということ。俗にいうトレンディドラマはズラーっと棚を占拠しているというのに。
単発の、笠智衆さんの「冬構え」「ながらえば」「今朝の秋」、鶴田浩二さんの「シャツの店」(数話)となると尚のこと。置いてあったら奇跡に近い。
森卓也さんは笠さんを評して<テレビの名優>と書いていたけど、けだし名言ですよね。小津作品だけじゃないのです、笠さんは。同時に鶴田さんだったら「男たちの旅路」はもちろんのこと、「シャツの店」も加えて語るべきだと思う。

いつもの長いあとがき

前回、裏を取らずに書いたツケが。
実家の本棚を探したら、「映画への旅」と「コミマサ・シネノート」に挟まれて瀬戸川猛資さんの「シネマ古今集」が鎮座しておりました。持ってないと思っていたのに、読んだことすら忘れているなんて。これじゃ説得力ないですね。とりあえず、パラパラとめくったら面白くて、全部一気読み。
例えば、「北北西に進路を取れ」では、『ヒッチコックはスリルとサスペンスと人を食ったユーモアの巨匠』だという。頭の二つは誰でも言うけど、三点セットで活字にした人っているかな? 「ライオン・キング」の剽窃騒動については『ことの本質を見ないでものを言っている人が多い』と、手塚さんのディズニーへの思い入れを教えてくれる。
何より、あとがきを読んで、かつ、ビリー・ワイルダーの代表作どれかを見て、それでも何も感じない人がいたら、そんな方は映画を見るという行為をやめた方がいい(←言ってしまった)。とにかく、映画の出来云々を述べるのではなく、<映画の見方>を教えてくれる本です。
そういえば、かつて小林信彦氏は、そのビリー・ワイルダー晩年の佳作「悲愁」評について、素人もどきの売文の氾濫を嘆いてましたっけ。一方で、トリックやオチを伏せ、ビリー・ワイルダーのハリウッドでの立場を示した書き方をした<読売の寧氏>に対しては、『これが芸なのだ』と書いてましたね。

夏休み、家族旅行で鎌倉に行ったときに、すれ違ったグループから「最後から二番目の恋」(鎌倉が舞台)がどうのこうのという会話が聞こえてきた。旅の恥は何とやら、思わずUターンして、会話に加わりたくなりましたよ。近年(?)私が見た唯一の連ドラです。岡田惠和脚本ですが、私はセリフの端々に山田太一作品の影響を感じ、見入ってしまいました。
視聴率的にも好評だったようで、続編も製作されましたね。こうした大人のドラマがプライムタイム枠でオンエアーされ、多くの方に支持されるというのは誠に喜ばしい。

最後に、ホンペンに続いて、ギョーカイ用語をもう一つ。
<楽日>。こちらは映画のみならず、芝居や相撲でも使いますから一般的ですね。語源が何かは知りませんが、芝居がハネると打ち上げがあって楽しいからだよという俗説を聞いたことがあります。真偽のほどはともかく、私はこの説が好きなので、あえて調べてません。
ただ、フィルム時代の映画館にとって楽日は忙しいものでした。ポスターなどの掲示物を張り替えたり、明日からのフィルムや予告を準備したり。
そんな中での楽しみは、外注していた店頭看板の差し替えの確認。
その時代の空気を味わってほしくて、また、まさにアートといえる作品を紹介したくて始めたのが、ロビーにある映画スターの肖像画展示です。
作者の大下武夫さんは、消えゆく職人を綴った「続職業外伝」(秋山真志著/ポプラ社)でも取り上げられています。ご一読ください。   (沼田)