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【『まちポレ壁新聞 -電子版-』更新しました。】Vol.48

◆ずっと気になっている書籍があります。文藝春秋社から出ている『鬼の筆』で、著者は春日太一さん。まだ40代後半ぐらいだったと思いますが、綿密な取材を重ねるその労力と筆力には頭が下がります。その春日さんの、『戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折』と副題を付けた『鬼の筆』を、読みたいと思いながらもちょっとそのブ厚さにビビってしまい、まだ購入に至らず。この投稿を自分へのきっかけにしたいところでもあります。
 そんなわけで今回は、代表作のひとつ「砂の器」を中心にまとめた、創刊初期、5年前の10号を取りあげます。

◆『まちポレ壁新聞』最新127号『賞の権威って?』(2/29発行)は、5階ロビーに掲示中です。
 ※101号以降のバックナンバーのファイルもあります。

まちポレ壁新聞 №10  2019年4月13日

想像力の器

タイトル未定の新しいコラム (その10)

よく妻に、「そんな誰も知らない映画ばっかり書いてないで、たまにはもっと有名な映画のこと書いたら」とかねてより言われていました。とりあえずは最初の読者である(あとでね、と言われることも☺)妻に敬意を表して、節目の10回目は、メジャーな作品を書くとするか。

「砂の器」です。
これなら妻も文句はあるまいゾ。

私はこれを、<封切の3本立て>で見ました。もともと「砂の器」自体が何度目かのリバイバルだったのですが、旧作の「張込み」とのセットにした清張=野村監督コンビの2本立て! 更に、これだけでは弱いと踏んだのか館側の判断で、お正月映画だった「男はつらいよ 寅次郎純情詩集」のロングまで加わるという<春の夢>のような番組。

洋画にあこがれていた10代後半の私にとって、日本映画の底力を教えられたような番組でしたね。
「男はつらいよ」との出会いもこれが初めてで、それに関して出来は残念ではあるのですが、文字による知識としてしか知らなかった「張込み」には唸りましたね。上品で、艶があって、切れ味鋭く。まさに脱帽でした。
それは、宮口精二、大木実、木村功、そして高峰秀子という俳優陣の力も大きなウェートを占めているのでしょうが。

おっと、「張込み」は<添え物・併映>だった。
トリの「砂の器」に話を戻そう。

改めて思い返すと、全編通して見たのはそんなにない。テレビ・ビデオも含めてもほんの数回だけだと思う。なのに強烈に印象づけられているのは、作品の素晴らしさはもちろんですが、初見が二十歳そこそこだったということに尽きるのではないか。前号の「ビッグ・ウェンズデー」「リトル・ロマンス」にしても、自分が生涯のベストワンと決めている「第三の男」と出会ったのも、みんなそのころです。
若い多感な頃に出会った作品に影響を受けるのはごくごく自然なことだし、必然的にそのころの作品を取りあげることが多くなるから、妻からは「知らない作品ばかり」と言われてしまうのだろう。

いつもの長いあとがき

作品について、何ら触れることなく、一ページ終わってしまった。
確か、名画座で再見の前後に、改めて「砂の器」の原作を読んでみたのですが、分厚いだけで、主人公の設定も現代音楽家という分かりにくさもあって、正直なところ面白いとは思いませんでしたね。

製作陣(野村芳太郎、橋本忍、山田洋次)は、この原作の中の「この親と子がどのような旅をしたのか、私はただ想像するだけで、それはこの二人にしか分かりません」という劇中のセリフに当たるほんの一、二行に焦点を絞り、その「想像」の部分を膨らませ、川又昂カメラマンのもと、日本の四季を追った映像にこの親子の彷徨に重ね合わせ、芥川也寸志(作曲は菅野光亮)の音楽と絡ませ、感情を揺さぶります。
プロは目の付け所が違うのですね。

「宿命」と題された曲が収録されたサントラは何百回聞いたか分からないほど。
劇中で、丹波哲郎さんと加藤嘉さんが対峙する名場面は、妻と結婚する前、先方へ挨拶に行く際に、よく二人で再現してましたっけ。

割と最近になって初めて知ったことが。
被害者の行動の裏を取るために映画館を訪ねる場面があるけど、その二本立ての一本が、野村監督の父、野村芳亭監督の「利根の朝霧」という作品だったこと。楽屋落ちネタには違いなく、松竹草創期のことは知らないのでそれ以上のことは書けませんが、この親と子の宿命を描いた作品だからこそ我が父の映画を取り上げたのではないかとも思う。

また、この映画館というのが伊勢なのですが、新富座という映画館はウチと同じような作品が多く、時々番組をチェックしています。劇中の映画館はどこなんだろう。
支配人役の渥美清さんがまた場をかっさらうんだよなぁ。

今は版権が厳しいけれど、昔はおおらかだったから、ポスターはもちろん、台本やスチルまで売店で販売してましたね。
「砂の器」のシナリオも売ってたんだけど、確か900円して入場料金よりも高く、泣く泣く諦めてポスターとパンフレットのみ購入。返す返すも残念でした。

この「砂の器」は、「八甲田山」とともに新聞のラテ欄にシネマコンサートと題された広告がよく載ってますね。それがどんなものなのか「私はただ想像するだけ」なのですが、機会があったらというか、機会を作って行ってみたいなと思っています。                       (沼田)