壁新聞

【『まちポレ壁新聞 -電子版-』更新しました。】Vol.24

◆言っても仕方ないけど、毎日暑い! お盆が過ぎて、もう夏も終わりだなぁと思う時期になると、私の頭の中では「おもいでの夏」と「八月の濡れた砂」のメロディがリフレインします。そんなことを思いながら、2年前の真夏に書いたものをご紹介します。それにしても、年々暑さがひどくなっているように感じませんか?

まちポレ壁新聞  №50  2021年8月5日

おさがりへの憧憬

Time My-Scene ~時には昔の話を~ (vol.15)

私は自分が長男で下に妹しかいないし、子どもも一人っ子なので、「おさがり」をした経験もされた経験もありません。
自分のものでない「お古」は与えられる側からしたらいい気はしないだろうし、真新しい服に袖を通すということを味わえないのは、確かに寂しい気になるかもしれません。ただ、ほんの一時しか使わないものなので、親側からすれば家計的に助かるのは事実ですよね。
中学時代、友人には兄姉がいる人が多くて、遊びに行って羨ましいと思ったのは、レコード棚を見たときです。井上陽水、荒井由実、かぐや姫、五つの赤い風船、サイモン&ガーファンクル、ジェームズ・テイラーなどといったシンガーのLPが並んだカラーボックスを見ては、いいなぁと思ったものです。友人本人のものではないからなかなか借りることは出来なかったけれど、そういった「情報」を早く知ることができただけでも、ある意味幸運だったと思います。

そんなことを思い出したのも、オリンピックの喧騒で明け暮れるテレビに嫌気がさして、BSでオンエアーされた「サイモン&ガーファンクル コンサート・イン・セントラルバーク NY 1981」を録画して、何度もリピート再生しているからです。あれからちょうど40年。私自身もこれまで文字情報のみで映像で見るのは初めてです。当時のニューヨーク・コッチ市長がオープニング宣言に立ったのさえ知りませんでした。
私にとって白眉だったのは、アート・ガーファンクルが「明日に架ける橋」を独唱する場面。こちらにも「詠唱」という副題を付けたいほどです。清らかで伸びやかな歌声が夜のセントラルパークに響き渡り、まるで教会にでもいるのかと見まごう気持ちになりました。歌い終わったあとの充足感に満ちた彼の表情が、それを物語っていると感じました。

同時に思い出したのが「ウォーターシップダウンのうさぎたち」という1979年(翌年公開)のアニメ映画。前評判ほど話題にはならなかった印象がありますが、理想郷を求めて彷徨ううさぎたちの物語は、50年に一度の大災害や戦火に見舞われる現代の方が、封切時よりも現実味を帯びているかもしれません。
そして、最後に流れるのがアート・ガーファンクルの「ブライト・アイズ」です。この歌の日本語版が井上陽水。映画を見た陽水さんが自ら名乗りをあげて(ガーファンクルからの指名だったかも?)、日本語訳詞まで担当したという入れ込みようです。『♪夢見ているのか? 流れに揺られ~』というアタマの部分だけは今も覚えています。日本語版になってしまうと、最後の歌でガッカリという例もありますが、この映画はもし字幕・吹替両バージョンあるなら、この歌を聴くためだけに両方見たいと思わせるぐらいの名曲です。
陽水さんの歌が最後にスクリーンから流れてくると、それだけで映画全体の印象も変わりますよね。「少年時代」、然り。

いつもの長いあとがき

リサイクルショップで売られているレンタル落ちのCDやDVDも、ある意味おさがりと言えるかもしれませんね。私は、好きなものは手許に置いておきたいし、中身が同じであれば中古でも全く気にしないので、逆に廉価で買える方が有難いです。

先日、CD・DVDどれでも一枚220円という中古セールで見つけた『グレイテスト・ムービー・ラブソングス』というCDには、「ボディガード」(1992年)の「オールウェイズ・ラブ・ユー」が収められているのですが、映画のホイットニー版ではなく、ポシェッツというアーティストのもの。もともとがドリー・パートンの歌だけど、やはりこの曲はホイットニーにとどめを刺しますね。
映画自体は大甘のラブストーリーで、何故大ヒットしたのか私には(実感として)不明ですが、公開当時プレイガイドのオネェサンから、「男性はそうかもね。でも、女性には堪らないの。守られたいのよ」と言われました。個人的には、脚本のローレンス・カスダンがイメージしながら書いたというスティーブ・マックイーンが主演だったら、また違ったかもと思ってます。

カバーというのも、強引に意訳すればおさがりと言えます、かね?(笑)。
このアルバムには、「10日間で男を上手にフル方法」から「フィールズ・ライク・ホーム」という、さすがはランディ・ニューマンというバラードも収録されているのですが、もともとは彼の製作によるミュージカルのための書下ろし曲。この映画は未見で、私がスクリーンでこの曲を聴いたのは、ジョン・トラボルタがブヨブヨの天使に扮する、ノーラ・エフロン監督の「マイケル」(1996年)でした。知らない方が普通といえる珍品です。見た上にサントラまで持っている私はかなりアブノーマル(笑)。いえ、サントラは間違いなく名盤です。ドン・ヘンリー、アレサ・フランクリン、ウィリー・ネルソン、そしてアル・グリーンまで網羅。さらに、アンディ・マクドウェルの生歌まで聞けるという稀少盤です(この曲でCDデビューとのこと)。

こういう、言ってみれば〈一般の人には要らない情報〉を、40年数前に教えてくれたのは林美雄さんの深夜放送(TBSラジオ『パックインミュージック』)でした。荒井由実さんを『彼女は天才』と紹介し、「八月の濡れた砂」のレコード化に奔走し、井上陽水さんと石川セリさんを結び付け、私の高座(注/講座)仲間に沢木耕太郎さんを教え(要らない情報笑)、そして若くして在職中の7月に逝ってしまいました。今年もまた、その夏が過ぎてゆきます。     (沼田)