壁新聞

【『まちポレ壁新聞 -電子版-』更新しました。】Vol.85

◆最新版159号では、「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」がらみで、「月刊シナリオ」誌と「泥の河」に触れました。

今回は、その「泥の河」について全く別の一人芝居という角度から展開した、3年半前の65号をご紹介します。

 

◆『まちポレ壁新聞』最新159号『映画を追いかけて』(5/20発行)は、5階ロビーに掲示中です。

※131号以降のバックナンバーのファイルもあります。

 

まちポレ壁新聞 №65  2021年11月23日

スクリーンのない映画館

Time My-Scene ~時には昔の話を~ (vol.30)

 

今回の見出しを見て、これから展開しようといていることにピンときた方がいたら、つくづくお近づきになりたいと思います(笑)。

 

30年ぐらい前になろうか。

ある町の親子劇場が、マルセ太郎さんの一人芝居を主催してくれたのです。

それが「スクリーンのない映画館」で、演目は「泥の河」でした。

親子でなくとも鑑賞できるし料金も格安だったはずですが、条件が一つあり、それは年会費を払って会員になることです。そうすると年間に数公演ある演目全てが会員料金で見られるという仕組みでした。その他にどんなものがあったかは覚えてないけど、ファミリーミュージカルや人形劇はあったと思います。

私はこれを見るためだけに会員になったわけですが、それでもトータルで通常の演劇一回分ぐらいの料金で済んだように記憶しています。

 

この仕組みは演劇団体ではわりと一般的なのか、例えばいわき演劇鑑賞会も同じような感じですね。

いわき演劇鑑賞会の場合は、入会金=1,200円+会費2,500円(毎月?)を払うと、年間6回の公演が入場料なしで全て見られるという仕組みのようです(注/2021年当時の形態です)。

これはよく考えられた料金体系だと思います。主催の会側は収入が保証され、招く団体の予算が立てやすく、会員としても当日料金なしでメジャーな芝居が見られるわけで、双方にメリットがあります。会の存続なしに観劇なしです。

 

閑話休題。

マルセさんは前口上で、形態模写と声帯模写について語ってくれました。大分記憶は曖昧ですが、片方は新しい言葉(当時)だと言ってました。

そんなのを前振りにして、<映画>は始まりました。初めは2人の少年たちの会話からです。巧いっ。もうそこで映画の世界に引き込まれました。田村高廣さんの台詞の時は、<完全に本人>そのものでした。似ている云々ではなく、間や抑揚がです。目をつぶると映画が<見えて>くるのです。まさに至芸の極地です。

ある会場に出向いた立川談志師匠は前説に立ち「テレビでタモリ、たけしを見るのを文明と言います。マルセ太郎を生で見るのを文化と言う」と述べたそうです。また内藤陳氏は、「あんたの芸は『お笑いの芥川賞』、でも『直木賞』じゃなきゃ売れないんだ」と語ったそうです。さすがはプロ、名批評です。

 

マルセさんの演目には、芸名の由来となった「天井桟敷の人々」、そしてもう一つの柱と言われた「生きる」をはじめ、「息子」「砂の器」「ライムライト」などがあったようです。残念ながらもうその<文化>に生で触れることは出来ませんが、「泥の河」を見られただけでも満足だし、主催してくれた団体には感謝です。

 

いつもの長いあとがき

 

名作という評価は普通後年になって付けられるものですが、「泥の河」(1981年)は封切られた時から<名作>でした。私も全部で3回見て、尚且つ映画→シナリオ→原作と、逆の順序でどちらも読むほど入れ込みました。

 

監督の小栗康平さんも原作の宮本輝さんも、どちらもこれがデビュー作です。

小栗監督はその後の作品が、「死の棘」「眠る男」などあまりにも<岩波系>過ぎたため未見なのですが、宮本作品はいろいろ読むきっかけにもなりました。「錦繍」や「ここに地終わり 海始まる」は世評は高くないように思いますが、好きで再読しています。

 

映画の背景は、私が生まれる数年前です。ただ、日本の高度成長期に当たるこの数年の差が大きく、実感として分かるという感じではありません。舞台もかなり貧困の地域に設定されています。

 

今回久しぶりにパンフレットを手にし、封切時に見落としていたことに気付きました。プロデューサーの木村元保さんです。

全く映画と無関係の素人だったのに自ら映画製作に乗り出し、製作した「大地の子守歌」「曽根崎心中」(共に増村保造監督)、そして本作と、全てベストワンクラスの秀作揃い。勢いで監督にまで乗りだした「ナナカマドの挽歌」は失敗作と言われていますが、未見ゆえ逆に気になります。

出演者では、ご夫婦役の田村高廣さん、藤田弓子さんはもとより、3人の子どもたちの瞳の輝きが忘れられません。そして、妖艶ながらも哀しみを秘めた加賀まりこさんが絶品でした。

その加賀まりこさんの久しぶりとなる主演映画「梅切らぬバカ」がまちポレで公開されます。この映画のことを知ったときからずっとやりたいなと心待ちにしていたので、楽しみ。

やっぱり岩波ホールよりも、私はシネスイッチ銀座あたりの作品の方が分かりやすくていいや(笑)。

 

もうマルセさんの舞台を見ることは出来ません。しかし、浪曲師の玉川太福さんが、「男はつらいよ」全作の浪曲化に取り組んでます。私は「寅次郎夕焼け小焼け」の抜粋をテレビで見ただけですが、これもまた見事な芸で、是非全作実現してほしいです。

そう言えば、玉川奈々福さんは前回のいわきポレポレ映画祭の関連企画で講演と映画上映がありました。今度は太福さんを呼んでくれたらいいな。

(沼田)