◆このところシナリオがらみの記述が多い壁新聞。およそ3年半前にも、シナリオと「舟を編む」や三浦しをんさんに触れていました。大体シナリオを取りあげるときは、マイナーな作品が多いです。冒頭に挙げた3作品のうち「いとみち」は青森を舞台に同郷の横浜聡子監督が描いた佳作でしたが、まちポレでは未公開でした。横浜監督は8月に新作があるので、今度こそ。
◆『まちポレ壁新聞』最新160号『街に灯』(6/15発行)は、5階ロビーに掲示中です。
※131号以降のバックナンバーのファイルもあります。
まちポレ壁新聞 №59 2021年10月30日
映画愛
Time My-Scene ~時には昔の話を~ (vol.24)
誰の発言か忘れましたが、ある著名な作家は、出先でふとした瞬間に原稿のフレーズが思い浮かぶことがあっても、メモを取ることは敢えてしないそうです。文字にすると画一化してしまい、重要度が分からなくなるという理由からです。メモをしなくても、本当に大事なことは忘れないということですね。
私が一番原稿のイメージが湧いてくるのは、長距離の運転をしているときです。実家まで凡そ二時間弱。毎週毎週同じ道を通っているからヒマヒマでボーっとしていると、突然「壁新聞」のイントロが浮かんでくることがあります。ま、この場合は運転中だから、メモを取りたくても出来ないけれど。
その時に浮かんだのが、今回の話題です。
今年のベストワンになりそうな予感を抱いて、「由宇子の天秤」を見ました。力作でかなり見応えはありましたが、私としては「茜色に焼かれる」や「いとみち」の方が心に響いてきましたね。
鑑賞後にパンフレットを買おうとすると千円! シナリオ掲載だから仕方ないか…と思いきや、私が買おうとしたのは正真正銘の撮影用台本で、パンフレットは別にありました。それもやはり千円したので、私は台本の方を買い求めることにしました。
何号か前に紹介したATGの「アートシアター」や「シネマスクエア・マガジン」には、<採録シナリオ>が掲載されてました。完成稿ではなくとも、これは貴重です。スタッフ・キャストの紹介や批評、あるいは場面写真は他の雑誌でも読んだり見たり出来るけれど、シナリオはなかなかお目にかかれないですもの。
私が近年最も感銘を受けた小説であり、映画も素晴らしい出来だった「舟を編む」(2013年)は、パンフレットも凝っていました。
シナリオが載っているのはもちろんですが、本編で使用された辞書と同じ紙質で編集したページが組み込まれているのです。作品の中で主人公がこだわっていた<ぬめり感>を再現し、サイズも編纂していた辞書と同じという凝りようです。私も、何度もそのページをめくっては<感触>を楽しんでしまいました。スタッフやキャストだけでなく、この作品に関わりのある全ての人々の思い入れを感じさせる逸話だと思います。
先に原作を読んでいる小説の映画化の場合、どうしても頭の中で<イメージキャスト>が出来上がってしまいますよね。
ただこの作品の、松田龍平くん、オダギリジョーさん、小林薫さん、伊佐山ひろ子さん、加藤剛さん、黒木華さんという編集部スタッフの面々は、ネームバリュー、演技力、原作のイメージを相対的に鑑みた場合、当時で考えうる最高のチームだったと言えると思います。
加藤剛さんなんて、「砂の器」を除けば、<イコール大岡越前>でしかなかったけれど、優しく見守りまとめ上げたのは、失礼を承知で言えば予想外でした。八千草薫さんとの御夫婦役なんて、日常生活が想像出来そうで最高! 伊佐山ひろ子さんも、でしゃばらず表情もほとんど変えないのに、原作通りになくてはならない存在でした。
最後に、本筋にはカンケーないけどいい話。未見の方のために詳細は伏せますが、<出演>シーンはないのに、ビッグな女優さんが登場します。オダギリジョーさんとの<友情出演>なのかな?
またこの作品に会いたくなったら、このパンフレットをめくることにしよう。
いつもよりは短いあとがき
シナリオと言えば、学生時代からの盟友であり脚本コンビでもあるマット・デイモンとベン・アフレックの二人は、久しぶりに「最後の決闘裁判」でシナリオを共作して共演していますね。監督はリドリー・スコットだし、必然的にデビュー作の「デュエリスト/決闘者」を連想させます。楽しみにしていた方もいたかと思いますが、予想通り静かに興行を終えてしまいました。
しかし、新春第2弾には「ハウス・オブ・グッチ」という、同監督の新作が控えています。え、何歳になるの?と思わず年齢を調べてしまいましたよ(83歳だそうです)。精力的ですね。
でも上には上がいます。もちろんクリント・イーストウッド監督です。
1ヶ月ぐらい前にBSで、「夕陽のガンマン」正・続と「運び屋」が1週間と置かず放映されたのです。1965年→2018年ですよ。えーと(すぐに計算できない笑)53年か。加えて、こちらも同様に正月第2弾「クライ・マッチョ」が控えてるんですからね。畏れ入りました、敬礼!てな感じですね。
三浦しをんさんを読むようになったのは、先の「舟を編む」がきっかけでした。そのため順序は逆になってしまったのですが、「まほろ駅前多田便利軒」もやはり松田龍平くん主演だったのですね。映画は未見ですが、個人的にはちょっと違うかなという感じです。
三浦さんはエッセイも巧いけど、こちらは多少当たり外れがあるかなぁ。
てなところで今回は無駄に穴埋めせず、これにて一件落着の大岡裁きとしますか。は!? (沼田)