◆タイムリー性というものを意識していない<掲示板>の壁新聞とは違って、アーカイブの電子版は、多少は時事性も考慮しています。
まちポレで「こんにちは、母さん」が始まったのにちなみ、今回は、映画教室と山田洋次作品を絡めて書いた5年前の8号を取りあげます。思いが詰まっているせいか、史上(紙上・私情)2番目の文字数となりました。
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まちポレ壁新聞 №8 2018年12月9日
夢の宅配便
タイトル未定の新しいコラム (その8)
街なかから、ワム!やマライア・キャリーの歌声がこぼれてくる時期になりましたね。邦楽だと山下達郎にトドメをさすわけですが。
新譜ではない旧作の「クリスマス・イブ」が一躍有名になったのはJR東海のCМのおかげ。以降は、クリスマスの定番ソングに。このCМ自体の印象はおぼろげで、この曲から個人的に真っ先に浮かぶのは、新横浜のホームに物憂げな表情でたたずむ斉藤由貴。そう、「キミは僕を好きになる」の一場面。恋人(加藤雅也)のもとへ引き返す決心を固めた彼女の表情にかぶさる名曲「クリスマス・イブ」。以前、私が勤務していた劇場は高校生向けが強く、本作もこの年のナンバーワンヒットとなりました。
ここから本作を中心に、後年「居酒屋ゆうれい」という快作も出した渡邊孝好監督にスポットを当てるか、あるいはコメディエンヌ斉藤由貴について書くか、いろいろと道はあるのですが、もちろん私はそのどちらでもないのを選択。
前任地では、移動映写、つまりは巡業というものがありました。フィルムと映写機材一式を抱え、学校やホール、公民館などに出向いての出張上映です。
この「キミは僕を好きになる」は某女子高でやったのですが、斉藤由貴と山田邦子の掛け合いにやんやの喝采や爆笑の連続。100回以上は行った映画教室の中で最も印象に残る上映会となりました。
確かに、学校での場合は授業の一環で行うわけで、<見せたい>作品があるのは分かります。あるいは、そのときは何も感じるものがなくても後になって…という場合もあるかもしれません。ただ、肝心の生徒や児童たちが見てくれなくては始まらないわけで、ジレンマですよね。
話しを学校での上映会に絞ると、担当の先生との作品決定までのプロセスが一番の悩みの種。双方の思惑が一致すればスムーズに話は進むのですが、そんなのは稀な方で、そうすると必然的に旧作を引っ張り出すわけです。困ったときの宮崎駿頼み、洋画では「スタンド・バイ・ミー」。何度ピンチから救われたことか。ま、『ピッチャー、鹿取』みたいなもんです⁉
特に小学校の場合は年齢に幅があり、ムズカシかったなあ。
そういえば、ある学校では授業時間の一コマでというとんでもない制約が入り、そんな、最低でも1時間30分はあるのに、60分に収まる中編なんてあるわけ…いやありました。またしても宮崎頼み。「名探偵ホームズ」!
今にして思えば、なかなか劇場でもお目にかかれない本作を学校の授業中に見られた子供たちは幸せだったかも。
いつもの長いあとがき
またしても山田洋次監督作品なのですが…。渥美清さんの急逝に伴い、代替番組として製作されたのが「虹をつかむ男」。果たして知っている方がどれほどいるか。監督のフィルモグラフィーでも、よほどスペースがないと紹介されない作品だと言っていいと思います。私自身、巡業のことを書こうと思いつくまで忘れていたぐらい。
封切時に見たときは、まさに滂沱の涙状態でした。ただ単に渥美さんがいないという事実だけでなく、様々な思いが入り混じった涙だったのですが。信頼できる映画の友からは、気持ちはわかるが、それと作品の出来とは別…と言われてしまいましたし。
この作品は、四国のローカル映画館を舞台にしており、毎週末に名作映画鑑賞会をしたり(その選定会議も描かれます)、あるいは田舎町の個人館はどこでもそうでしょうが、劇場を休館にして移動映写に出かけたりします。公民館で上映する作品が「野菊の如き君なりき」(珠玉の名作という言葉はこの作品のためにある!)。そして、春に廃校となってしまう小学校のたった一人の児童のために上映するのが「禁じられた遊び」。私はこのエピソードで<どうしようもなくなって>しまったのですが、今回、ビデオでの再見は意外と冷静でいられましたね。かえって、「男はつらいよ」のフィルムチェックの試写をする場面で、画面を見つめる吉岡秀隆君の表情や、宣伝カーの中でその主題歌を西田敏行さんが口ずさむ場面で、<堪らなくなって>しまった。心なしか、西田さんの目が潤んでいたように見えたし、ふっと横を向いてしまったのは、耐えられなくなったからかも、と思えたし。
この作品は明らかに山田監督が渥美さんに宛てた<弔辞>であり、そっくりそのまんま『満男はつらいよ』である。だいたいが、親父と喧嘩して家出をし、堤防であんパンを頬張ったりするのだから! 50本目となる「男はつらいよ」の新作もこんな感じかなと思いながらの再見でした。
話しは少々旧聞に属するのですが、十月に開催された水戸映画祭に十数年ぶりに赴きました。いつの間にか33回を数え、大したものです。会場は水戸芸術館ACMシアター。はっきり言って、椅子が、見る人のことを考えないアートに徹した造りなのですが(クッションが付いてマシになった)、映画祭スタッフの気構えは特筆もの。メインの作品の一つ(全て粒揃いですが)「バーフバリ王の凱旋<完全版>」、そして関連企画であるフィルムセンター協賛の「けんかえれじい」「東京流れ者」(清順!)がシネマスコープということで、既設のスタンダードサイズのスクリーンに左右を<付け足し>たのです! もちろん、移動映写のプロに頼んで。もとより旧知でもあったので、私はその仕掛けがどんなものなのかという興味もあり、片付けのお手伝いをさせてもらいました。
当然、これにより、ン万円予算が膨らんだでしょうが、シネマスコープをデカい画面で!という当たり前のことに手間とお金をかけて行ったスタッフには敬意を表します。今のシネコンが<縮むスコープ>と揶揄されるのとは雲泥。だいたい、なんでシネマスコープが誕生したんだよ。 (沼田)