壁新聞

【『まちポレ壁新聞 -電子版-』更新しました。】Vol.28

◆長かった夏休みも間もなく終わり。宿題の追い込みラッシュで親も多忙を極める真っ最中(笑)。今回はそんな夏休みの宿題になぞらえて書いた、一年前の79号をご紹介します。

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まちポレ壁新聞  №79 2022年6月24日

映画館の悲劇

Time My-Scene ~時には昔の話を~ (vol.44)

さぁこれから映画を見るぞというとき、人の視野は意外と狭くなっているかもしれません。見る映画に思いを馳せ、周りに張ってあるポスターや売店のグッズも目に入らなかったり…。
ところが見終えて出てくると一転、360度見渡せる状況に。映画に堪能したり、あるいはその逆だったり、どちらにせよ穏やかな心持ちでいます。売店に立ち寄り商品を眺めては、パンフレットを買おうかどうか迷ったりして。
そういった解放感からか、同じ映画を見終えて出てきた別の観客同士が、「まさか、○○が犯人だったなんて!」などと口走っている光景に出くわしたこと、ありませんか?
終わったということは、イコール次回の前でもあるわけです。次の回を見ようと思っている方からしたら、「やめてくれー」と口を塞ぎたくなります。あるいは、Uターンしてちょっと間を置いたりなど。

ただここで<逃げ場>がないのは、近くにいて<職場放棄>できない映画館スタッフです。
「オリエント急行殺人事件」(シドニー・ルメット版)の感想を映画館で働いていた友人にLINEしたら、「私は勤務中に犯人をバラされた」と返しが来ました。映画以上の悲劇です。まさに顔面蒼白のちびまる子状態。スマイル0円と思っても、接客の表情は引きつってしまいます(泣)。
私も、同じクリスティ原作の「ナイル殺人事件」(ジョン・ギラーミン版)で同様の経験をしました。サークル仲間がミニコミで別作品の紹介をする際、「『ナイル殺人事件』の華麗な犯人○○が」という表現をしたのです。あちゃー、何もここで…。関係ないじゃない! ただ、それでも十分楽しめたということは、それだけ出来がよかったという証でもありますが(余計な「予備知識」がなかったら、何倍も楽しめたハズ)。
人気作品を上映中の場合、それに比例してスタッフも忙しいわけだから、必然的に自分が見るタイミングが遅くなりがちです。すると、やはりこれも比例して<要らない情報>がどんどん入ってきます。ならば事前試写でチェックすればいいじゃないかと言われそうですが、帰りは遅いし、観客と一緒に見るというのも、マーケティングとして重要なことなのです。ひと口で言えば観客の<反応>を知りたいのです。それ以外にも、客層や年齢構成をチェックしたりとか。何も作品だけを見るならサンプルDVDを見れば済む話ですから。いち映画ファンとしてではなく、仕事として俯瞰的に見る目も必要なのです。

そういった<禁じ手>防止からか、稀に<封印>されたパンフレットを見かけます。これは、どの映画が最初だったのでしょうか?
私自身が購入したものでは、「ユージュアル・サスペクツ」が茶封筒入りでした。「クライング・ゲーム」もそうだったような記憶があるけれど、目張りだけだったかな?
基本的にパンフレットは、見てよかったから買うものでしょ(稀に売り切れ予防で先にということも)。まぁ、見る前の休憩時間に物語の詳細まで読む方がいるとは思えないけど、あえて封印するのは、映画会社の「結末は絶対に話さないで」式アピールなのでしょうね。

いつもの長いあとがき

今、「映画を早送りで観る人たち」という本が話題になっていますね。未読なのですが、「ファスト映画・ネタバレ-コンテンツ消費の現在形」というサブタイトルが付いています。
この本の紹介絡みで、ドラマの1~2話を見て、そのあといきなり最終話を見る、そうやって<安心>してから、もう一度頭から見直すという方が相当数いると聞いて、卒倒しそうになりました。意味不明としか言いようがありません。どう考えても理解できません。こんな人は、推理小説をラストの犯人やトリックを知ってから読むのでしょうか?
映画は見えるもの(see)ではなく、見るもの(look)でしょ。この傾向を想像するに、単に友人と話を合わせるため、断片的にでも情報を得たいということなのでしょうか?
<間>や<抑揚>のない、倍速にして<流れ>だけを通して見ても、それは全くの別もの。それで「見ました」と胸張って言われても「…。」←コメントのしようがありません。

いや待てよ。
ここまで書いてきて、子どもの時の夏休みの課題図書作文を思い出しました。
もう明日で夏休みが終わるという前日に、本の頭と最後の数ページと解説だけ読んで、枡目を埋める<作業>をした苦い思い出。あれと同じ? でも、あれは必要に迫られての苦肉の策だったという事情があります(笑)。

これはもう何十年も前の、常連さんのお茶会の席での話題です。
「エデンの東」を見ていたら、悲しみにくれるジェームス・ディーンを抱きしめる場面だかで、館内の女性が思わず「いいなぁ」とウットリするような声で呟いたそうで、その場が画面とミスマッチな笑いに包まれたそう。場にはそぐわないけど、余程のジミー熱が高じ心底そう思った吐息のような声だったのでしょうね。
普段なら白けてしまいそうなのに、館内があたたかくなるという、冒頭のエピソードとは全く逆になるけど、これも映画館ならではのことかもしれません。
(沼田)