◆はたして読者がいるんだろうかという壁新聞。なのに6年も続いているのは、単に自分が好きなことにしか書いていないから、これに尽きます。今回取りあげた4年前の25号などまさにその典型(笑)。大体、「往年の東映」というだけで間口は狭小になります。加えて、コピーでなく「惹句」がテーマですから。
◆『まちポレ壁新聞』最新134号『甦る記憶』(7/3発行)は、5階ロビーに掲示中です。
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まちポレ壁新聞 №25 2020年6月21日
惹句/活字の映画館
タイトル未定の新しいコラム (その25)
小名浜に赴いて間もなく4ヶ月。実働は休館がありもっと短いから、まだまだ戸惑いの日々。そして、駅前との最大の違いは、外の天気が分からないこと。ふた昔も前は、雨が降ったらBGMが「雨に唄えば」や「雨に濡れても」に切り替わり、品出しを変えたり傘袋を出したりという《暗号》があったやに聞きますが、今は遠い昔の話のようですね。
「雨に濡れても」は、言わずと知れたバート・バカラックによる「明日に向って撃て!」の主題歌で、B・J・トーマスの歌が大ヒット。私は在籍していた高校の文化祭で上映されたのを体育館で見たので、尚のこと印象深い。
そして、この作品の監督=ジョージ・ロイ・ヒルと主演の二人=ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードが再びトリオを組んだのが「スティング」。名画座で遅れて見た私は、《映画史上の名作》故にネタばれしていましたが、それでも存分に堪能しました。
「いっちょカモろうぜ」というのが、この作品の惹句なのですが、蜂がチクリと刺す、転じて騙す、ぼったくるという原題「スティング」をひと言で言い表す絶妙な《殺し文句》です。あ、惹句は「じゃっく」と読みます。漢字そのまま、文字通り惹き付ける文句=今でいうコピー、です。いや、そう言ってしまうと身も蓋もない。そこはニュアンスの問題なので、ヒジョーにビミョーではあるのですが。
そんなわけで、今回は「惹句の巻」の始まり始まりーっと。
№22で「生きいそぎの記」が映画本のベストと記しましたが、補足すると、小説としてのベスト。
作品のベスト3は選べないけれど、映画本のベスト3は不変で、残りの2作は「映画のこころ 惹句術」と「黄昏のムービー・パレス」(村松友視さん)。ずっと一貫していて、終生変わらないかも(笑)(双葉さんの「ぼくの採点表」は除く。あれは別格。三春の滝桜みたいなもの笑)。
「黄昏のムービー・パレス」も、サラッと紹介したくない愛好本なので、今回は「惹句術」に絞って。
関根忠郎さんという、東映宣伝部に籍を置き、ポスター・広告の宣伝を一手に引き受けてきた方に、山田宏一さん、山根貞男さんという「聞き書きの名手」二人がインタビューした鼎談集。もともとキネマ旬報での約2年半に及ぶ連載時から愛読していて、全面改稿されて単行本化された際、即買い求めました。500頁にも渡る大著ですが、一気に読破。「もうひとつの映画史」「もうひとつの映画論」になっています。ある意味《辞書》でもあるので、「ぼくの採点表」同様、何かにつけ本棚から引っ張り出すことが多く、それだけ汚れている。ま、名著ゆえの勲章ですね。
尚本書は、初版は講談社、10年後に映画関係の著書の多いワイズ出版から追補版が出版されました。
更に補足すると、続編とも言える「関根忠郎の映画惹句術」が2012年に徳間書店から出ましたが、これは「関根さんからぼくは、映画のコピーを学んだ。」(本の帯)という鈴木敏夫さんの依頼により、ジブリの「熱風」に2年弱連載したのを補足改訂したもの。ただ、こちらは「聞き書きの名手」がいないため、ちょっと物足りない。とはいえ、健さんと「新幹線大爆破」以来、37年ぶりの広告の仕事上での邂逅という《大きなご褒美》(前書き)となった「あなたへ」に始まり、佳作「竜二」、幻となった文太さんの「丹下左膳」、「志麻姐御」まで、前記したように「もう一つの映画史・映画論」であり、「エンドマークが出るのが惜しい」(「仁義なき戦い 完結篇」)本に違いないのは確か。
関根さんは80代後半になると思いますが、今も業界誌では連載を持っています。一般の方が読めないのが、返す返すも「惜しい」。
今回は短いあとがき
この「惹句術」の帯には「これは活字の映画館だ」とあります。装幀も凝っていて、カバーを外すと全く違った表紙が現れるというこだわり。かなりの労作だったと思うのですが、逆にそれを楽しんでいるかのように、自分もこの本の製作者の一人だという気概というのがヒシヒシと伝わってきます。
最初の方で、「ポスターとコピーで、もう映画を見始めているんだよ」と山田氏は発言しています。
私が映画館に通っていた町は、主要な映画館が5箇所に分かれていて、映画を見る前後に他の映画館まで足を運び、ポスターや看板で「映画を見て」いました。これから見る(あるいは見られない)映画に思いを馳せて、間違いなく、もう「映画を見る」という行為は始まっていたのです。
そして、その館前看板を一手に引き受けていたのが、大下武夫さんでした。
まちポレの5階ロビーにずっと飾らせていただいていた映画スターの肖像画は、全てその大下さんの描きおろしです。およそ2年の長きにわたり、お客様はもちろんのこと、私自身が楽しませてもらいました。
改めて言うまでもないことですが、描き看板にはポスターと違った深い味わいがあります。今だったら、それこそSNS映えの格好のポイント。
写真や本で見たからと言って美術館に行かないこともないわけでしょう。
でも、その「名品」に触れられるのも、あと数日になりました。お急ぎください! 《終》 (沼田)