壁新聞

【『まちポレ壁新聞 -電子版-』更新しました。】Vol.31

◆日本映画界の現役最長老監督、山田洋次監督が91歳にして送る最新作「こんにちは、母さん」は現在、ポレポレシネマズいわき小名浜で上映中です。そこで今回は、2年前の前作「キネマの神様」について触れた53号をご紹介します。見出しは、珍しく新作について書いたからですよ。←かつては「時には」どころか、ほぼ毎号旧作のことばかり書いていましたから(笑)。

◆『まちポレ壁新聞』最新118号『はじけて映画』は、5階ロビーに掲示中です。

※101号以降のバックナンバーのファイルもあります。

 

まちポレ壁新聞  №53   2021年9月7日

時には新作の話を

Time My-Scene ~時には昔の話を~ (vol.18)

 

映画や演劇の用語で、『当て書き』というのがあります。初めから演じる役者を想定して脚本を書くことをいいます。三谷幸喜さんがほぼそうらしいですね。

山田洋次監督89歳にして89本目の作品となった「キネマの神様」は、原田マハさんの原作ものではありますが、主演のゴウ役は間違いなく、志村けんさんをイメージして創作された人物です。そして、その主役に予定していた俳優が撮影直前に急死するという悲運に見舞われながらも、執念で完成にこぎつけた作品です。

今、簡単に「執念」という言葉で済ませてしまいましたが、山田監督をはじめとするスタッフ・キャストにとっては、そんな手あかのついた言葉で済まされないほどの辛苦があったのは想像に難くありません。特に、代役を演じることになった(買って出た?)沢田研二さんのプレッシャーたるや、相当のものだったと思います。

正直言うと、そのキャラクターの違いからくる違和感は最後の最後までぬぐえず、観終わってからも付きまとっています。沢田研二さんだと、ギャンブルで借金を重ね、実の娘からも絶縁を突き付けられるというのが重なってこないのです。やっぱりどうしてもスター・ジュリーの影がチラついてしまいます。これを「変なおじさん」が演じていたら…。劇中何度そう思ったことか。

ましてや、若き頃を演じるのが菅田将暉くんです。がむしゃらに撮影現場を走り回る姿からは想像できないし、ギャンブル好きというのもセリフで一度説明するだけで、映像としては描かれていないので尚更です。

普段から批評は褒めるが勝ちと言っているのに、珍しく否定的な意見から入ってしまいました。ここから軌道修正です。

そうは言ってもこの映画、やはりいろいろな意味で「残る」作品だと思います。

その理由としては、①前述したように主役の急死という不測の事態にも関わらず、完成にこぎつけたこと。➁その急死の原因となったコロナ禍による中断があり、シナリオや撮影方法の大幅な変更があったこと。➂古い撮影所育ちのスタッフやキャストと、それを知らない若手との融合で生まれた作品であること、この三点からです。

①はともかく、➁に関しては本作だけでなく、他の作品でも大なり小なり影響はあったでしょう。特筆すべきは➂です。菅田将暉くんに、「(これまで経験してきた現場とは)全く別物」と言わしめた山田組伝統の撮影スタイルを経験できたことは彼のみでなく、永野芽郁ちゃん、北川景子さん、野田洋次郎さんらにとって、何物にも代え難い経験となったに違いありません。もしかしたら、後年ターニングポイントとなった作品として語られるかもしれません。

 

いつもの長いあとがき

上記の菅田将暉くんの発言は、「キネマの神様」に合わせてNHK-BSで放送された、「山田洋次の青春/映画の夢 夢の工場」の番組内で語ったものです。進行役が松たか子さん、犬童一心監督が聞き手に回った90分番組でした。

山田監督自身の発言でも、印象に残ったものがあります。

自宅(砧)が近く、親交のあった黒澤明監督に、「撮影所は〈建物〉ではない。腕のある、情熱を持った(専属の)映画人がいるから成り立っているんだ。ステージしかなくてスタッフがいないのは撮影所じゃない」と言われたそうです。フリーランスで固められた今は、撮影が終われば「お疲れさま」のひと言で散り散りに。昔はまた翌日、所内ですぐ顔を合わせることが出来たのに。

本作にも付き、松竹最後の助監督として入社した朝原雄三監督は、「(大船の)伝統も技術も引き継いでいないが、<気質>だけは引き継いでます」と冗談ぽく語っていたけれど、これぞまさしく撮影所育ちの映画人の気概です。

劇中、「東京物語」を再現するシーンがあります。

その演出中に山田監督が何気なく言った「(みんなの)勉強になるよ」という言葉が忘れられません。構図や所作の一つ一つがスタッフやキャストにとって財産になるのです。例え今は「模倣」ではあったとしても、それがあとで花が咲き実となる日が来るのです。

オマージュと言えば、永野芽郁ちゃんが働く食堂のお母さんは広岡由里子さんが演じています。初めは杉村春子さんを思い浮かべたのですが、おそらく松竹の大部屋女優だった谷よしのさんへのオマージュでしょう。名前さえ知らない方が普通ですが、「男はつらいよ」には必ず旅館の中居役などで顔を出していた「名チョイ役」です。彼女のために用意された「いい場面」があるのですが、未見の方のためにそれは伏せますね。

全体的には甘い、よく言えば温かい作品ではありましたが、それは多分山田監督が小学二年の時に、女中さんの介添え人として同行して見た、「路傍の石」(田坂具隆監督)にその女性がボロボロ涙したことがベースにあるのでしょう。監督になった時に、こんな女性のために映画を撮り続けようと誓ったそうですから。

番組からの引用ばかりとなってしまいましたが、私が能書きを垂れるよりも、才能と経験のある映画人の言葉の方が何十倍も重みがあります。それを紹介できただけで光栄です。                  (沼田)