◆次号の壁新聞は、クレジットについて触れる予定。加えて、「SHOGUN/将軍」のゴールデン・グローブ賞4部門受賞という旬な話題もあり、その真田広之さんを小出しにした、3年前の56号を今回は取りあげます。
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まちポレ壁新聞 №56 2021年10月5日
配役序列、気になりますか?
Time My-Scene ~時には昔の話を~ (vol.21)
配役序列、英語でいうとビリング。クレジットの順番ですね。
映画が好きで、あの俳優が出ているから見に行くという、ごく一般的なファンにとっては別に興味ないことですが、主演の俳優や製作者にとっては、一番神経を遣うところと言えます。
例えば、「蒲田行進曲」(1982年)。風間杜夫さん扮する銀ちゃんが、監督役の蟹江敬三さんに、この映画の主役はオレなのか橘(原田大二郎さん)なのかと迫り、「俺の映画だ! 監督だぞ、俺は」と返され、じゃ俺たちとの映画ということにして…という場面が顕著。笑わせるシーンではありますが、当事者にとってはそれだけ敏感なものなのです。
私が配役序列を意識した(知った)のは「タワーリング・インフェルノ」(1974年)でした。
「スクリーン」誌にオリジナルポスターを紹介するページがあり、それを取りあげ解説していたのです。左上にスティーブ・マックイーン、右上にポール・ニューマンという並び。但し、ニューマンの位置は水平ではなく、はっきりと上にズレているのです。そうやって<バランス>を保つ苦肉の策という説明が記されていました。実際の映画のクレジットでも、オープニング、エンディングとも同じ構図でしたね。
ニューマンが前年に出演した「スティング」では、ほぼ出ずっぱりのロバート・レッドフォードと違い、ニューマンが画面に姿を現すのは始まって28分経ってからです。それも酔いつぶれてベッドから落ち、壁の間に鼻ペチャで挟まっているという無様な姿で(笑)。それでも当然ながらクレジットはニューマン→レッドフォードの順です。まぁ、この場合は明らかな〈格〉の違いからですが。
実はこの二本、9月下旬にBSで続けざまに放送されました。それで私も何十年振りかでの再見となりました。もっとも初見も封切ではなく、どちらも名画座でしたけれど。
「タワーリング・インフェルノ」を見たのは、確か、浅草六区の東京クラブという重文級の3階建ての古~い映画館でした。洋画の3本立てだったはずですが、浅草という土地柄、煙草の煙がたゆたう中でのある意味貴重な体験でもありました。にもかかわらず、マックイーンが45分過ぎてやっと画面に登場した時には、場内がざわついたのです。さすがです。もう、こういうカリスマ性のある大スターはいなくなりましたよね。
一方の「スティング」。再見で分かっていてもカモられる快感(笑)。ジョージ・ロイ・ヒル監督の名人芸ですね。
いつもの長いあとがき
「タワーリング・インフェルノ」は二つの意味で、エポックメイキングな作品でした。
一つは、「ポセイドン・アドベンチャー」「大地震」と続く、パニック映画の火付け役であり、かつ頂点に君臨する作品であることです。極限状況下での人間模様を、オールスターのグランドホテル方式で描くというのがすっかり定着しました。ただ、ブームは意外と短かったですね。確か、80年代に入るともうそういった宣伝はされなかったはずです。私見では、「メテオ」が元凶だったと思っています。掛け声だけで、質的にも興行的にもさっぱりだったので。
90年代に入ると、アクション映画の傑作「スピード」にしても、「アウトブレイク」「エアフォース・ワン」も、そういう括りではなかったですね。
逆に、いつの間にか<ディザスター映画>という新語がそれに取って代わりました。「ツイスター」や「ディープ・インパクト」あたりからがそうだと思うのですが、一般化したのは「デイ・アフター・トゥモロー」かなぁ? 要するに、(自然)災害ものですね。
もう一つが、<超拡大公開>の先駆けだった作品であることです。
当時はまだ、ロードショーと封切が分かれていました。東京など大都市で先行公開し、ローカルは1~2週遅れて上映というのが通常でした。「タワーリング・インフェルノ」にしてもそうです。アタマに<全国一斉>という文字が加わるようになったのは、いつからかなぁ。「キングコング」(1976年)がそうかなぁ!?(未確認) ただ、シネコン時代の今とは全く事情が違うから、<全国117館超拡大公開>と言われてもちょっとピンとこないですね。←なので、短めの説明。
クレジットといえば、日本映画における<特別出演>と<友情出演>はどう違うのでしょうか? 聞いた話では、後者はノーギャラだそうですが、ホント?
冒頭に挙げた「蒲田行進曲」には、千葉真一さん、志穂美悦ちゃん、真田広之さんが本人役で出演していますが、クレジットには<友情出演>とあります。ということは、深作監督のために一肌脱いだということなの?
前者は、文字通り、その1、2シーンだけに出演している<格>のある大スター、例えば佐分利信さん。よくこの表記で、政治家や黒幕役で顔出しますね。
稀にノンクレジットで大スターが出演していることがありますよね。
ジーン・ハックマンとデンゼル・ワシントンというアカデミー賞スターの丁々発止のやり取りが手に汗握る「クリムゾン・タイド」(1995年)には、<陸>に上がってから、エッと声を上げそうになる名優が出てきます。アカデミー賞の3人が同じ画面に収まるというオドロキ。ノンクレジットだからこその快楽なのに、サントラCDでは僅か数行の解説文の中で、ご丁寧にも<紹介>していました。いくら何でもこれは掟破りでしょう。 (沼田)