◆保存していた151・152号のデータが破損してしまい、新たに打ち直すはめに。前者は『ググってみた』という見出しで、2本立ての併映作品や映画史に残る作品について綴ったのですが、ちょうどそれとシンクロするようなことを、別のアプローチから4年前にも触れていました。今回は、その41号を取りあげます。
◆『まちポレ壁新聞』最新158号『そこに在るべきもの』(5/9発行)は、5階ロビーに掲示中です。
※131号以降のバックナンバーのファイルもあります。
まちポレ壁新聞 №41 2021年6月9日
幻の名作
Time My-Scene ~時には昔の話を~ (vol.6)
映画の宣伝用素材のひとつに、プレスシートというものがあります。
スタッフやキャストのプロフィール紹介、ストーリー、製作裏話などを写真とともに掲載したパンフレット仕立ての冊子です。サイズや形状を凝らして、これを見ただけでも、映画会社の力の入れ具合の物差しにもなるという代物です(笑)。乱暴に言ってしまえば公式サイトのペーパー版なのですが、シネコン以前はもっと密度が濃かったように思います。今は、販売用のパンフレットと内容が大して違わないような場合も見受けられますから。
昔は各館がショーウィンドーにまずポスターを貼って、このプレスシートや白黒のキャビネ版、カラースチール、そして日付ビラや前売券発売中などと掲示していました。これを眺めて、<その気>になるのが楽しみでしたね。段々と高揚感も涌いてくるし(笑)。
「アリスの恋」(1974年)の高評価に続く、「タクシードライバー」(1976年)のカンヌ・グランプリで一躍時代の寵児となったマーチン・スコセッシ監督の実質的なデビュー作ともいえる「明日に処刑を…」は、その4年前の作品ですが、グランプリの恩恵を受けてめでたく、同年日本でも公開の運びとなりました。一部では評判になっていましたが、ローカルは「アンデスの聖餐」(1975年)というドキュメンタリーとの二本立てだったこともあり(後年「生きてこそ」というタイトルで映画化)、まだ学生だった私が、封切で高いお金を払う対象にはなりませんでした。
初めて見たのは、しばらく経って名画座に降りてきてからです。
ところは、以前紹介した大塚名画座。
ところが、あろうことかフィルムの巻が入れ替わっていて、1時間もたたない途中のヘンなところで、エンドクレジットが始まってしまったのです。プリントを編集するときに間違ってしまったのですね。おかげで作品の印象は<雰囲気>が伝わってきたのみで、ロビーに掲示されていたプレスシートの中の、「スピルバーグ、ルーカスらと共にハリウッド第7世代のあけぼのを告げた、マーチン・スコセッシ監督の幻の傑作」という映画評論家山根祥敬氏のコメントが虚しく思えるだけでした。そのあと何度も見るチャンスはありましたが、初見の出会いが最悪だったために躊躇してしまい、いまだに私にとっては<幻の傑作>のままです。おそらくこれからも…。
あまりのショックからか、あの時、どういう対応をされたのか全く覚えていません。通常考えられるのは、①再編集して上映し直し。②払い戻し。③当日のチケットで後日再入場可。または、招待券の発行。以上が考えられるパターンです。ありえへんトラブルに遭ったのに全然覚えていないというところに、落ち込みの大きさが窺えるでしょう。更に言うと、同時上映も記憶にありません。一番覚えているのがプレスシートの見出しとは、何と皮肉なことか。ああああ。
いつもの長いあとがき
前ページを読み直して、大きな勘違いをしていたことに気付きました。
<逆>でした。「アンデスの聖餐」がトリで、「明日に処刑を…」が添え物でした。
前者は、この作品の数年前に起きた旅客機墜落事故の生存者たちが、同乗者の人肉を食べて生き残ったというショッキングなドキュメンタリーでした。
後者は、俗にいう<スプラッシュ>です。大都市のロードショーにかからない作品の、ローカル向け抱き合わせ作品です。他に有名な作品(という表現はヘンですが)として、クリント・イーストウッド監督・主演の「センチメンタル・アドベンチャー」(1982年)があります(メイン作は失念)。分かりやすくテレビに例えると、歌手や芸人のバーター(抱き合わせ出演)と同じですね。
だから、記録上、後者の日本公開日は、前者より2ヶ月ぐらい後になっています。館前看板なども、メイン作の描き看板の一画に、「同時上映」の文字とともにB2ポスターが貼られるといった程度です。まぁ、学生の少ない小遣いから見ようという気にはならないのもむベなるかなですよね。
話しをプレスシートに戻します。
今でこそパンフレット風の冊子状になりましたが、その前は大体A3サイズでケント紙のような紙質で裏表4ページ。更にさかのぼるとB3サイズで、表はポスターと同デザイン、裏に解説などというパターンでしたね。
今のようにスマホひとつあればすぐその場で調べられる時代ではなかったし、特に名画座の掲示物といったらポスターとプレスシートぐらいなので、映画の前後に食い入るように読むわけです。だから、あの「幻の傑作」の文句も鮮明に覚えていたのです。それなのに……。
気を取り直して。プレスシートはあくまでも映画館や関係者向けの宣伝材料なので、非売品です。だから試写会での配布などを除けば、一般の方が入手できるのは稀だと思われます。ただ私は、自分のところで上映していないにも関わらず、同業のよしみで「永遠の愛に生きて」「日の名残り」「父の祈りを」といった、いずれも1993~94年にかけて公開されたプレスを他館から頂きました。もちろん「おねだり」したわけではなく、買おうとしたパンフレットが売り切れていたからですよ。
コレクションからいえば、サイズを統一してもらった方が収納は楽ですが、時々バカでかいパンフレットやプレスシートもあり、これってやっぱり<歩く看板>効果を狙ってるんでしょうかね!? (沼田)